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X線光電子分光

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X線光電子分光法(ESCA または XPS)
Electron Spectroscopy for Chemical Analysis (X-ray Photoelectron Spectroscopy)

●概要
X線光電分光法(ESCAまたはXPS)は、試料表面にX線を照射し、試料表面から放出される光電子(※1)の運動エネルギーを計測することで、試料表面を構成する元素の組成、化学結合状態を分析する手法です。
表面から深いところで発生した光電子は、表面に出てくるまでに吸収されるため、この方法による分析深さは、平均的な表面層の数十原子層(3~5nm)の領域になります。 AlKα線を用いるXPS装置では、一般に試料表面数nm以下に存在する元素の情報を得ることが出来ます。
また原子の価電荷(価数)や原子間の距離など、分析対象となる原子周囲の電子状態によって起こる結合エネルギーの変化(化学シフト)はAES(※3)で観察される化学シフトよりも大きな場合が多く、化学結合状態を比較的容易に識別可能であることもXPSの特長と言えます。

K.Siegbahnらの 1950年代から1960年代にかけての研究成果により、高エネルギー分解能の分光装置を開発し、以前から知られていた光電子放出現象に新しい光を照らすことによって光電子ピークの化学シフト(※2)から、物質の元素組成と共に化学状態の知見を与える方法を創出した意義が大きく、この業績により、Siegbahnには1981年ノーベル物理学賞が授与されました。
歴史的な流れによって化学系ではESCA、物理系ではXPSと呼ばれているようです。

●原理
物質に軟X線(AlKα, MgKα)を照射すると、原子軌道の電子が励起され、光電効果により、構成する各元素から光電子が放出される。このうち内殻軌道からの光電子は、元素に固有の値を有しており、元素の化学状態の違いによってエネルギー値はわずかに差を持つ(化学シフト)。光電子のエネルギー値から元素の同定・化学状態帰属を行ない、光電子強度から元素組成を解析する。光電子は非弾性散乱を生じやすいので、検出された光電子ピークは表面数nm以内で発生したものに限られる。ターゲットが原子番号の大きな元素の場合、スピン軌道分裂によって2つのピークが出現する。

●情報(どんな事がわかるか)
水素, ヘリウムを除くすべての元素の組成と化学結合状態がわかる。
試料表面の2~10nmの情報が得られる。
剥離・切削・液層エッチング等の併用で、バルク露出面・界面の分析が可能。
無機材料の場合、Arイオンエッチングを併用すれば、約500nmまでの深さ方向分析が可能(材料によってはダメージが大きいものもある)。
有機材料の場合、C60イオンエッチングを併用することにより深さ方向分析が可能(材料によってはダメージが大きいものもある)。
有機材料の場合、GCIBエッチングを併用することにより、約300nmまでの深さ方向分析が可能(多くの有機材料に適用可能)。
気相化学修飾法を適用すれば、有機材料のカルボキシル基・水酸基・第1アミンなどの検出・定量が可能。
仕事関数など電子状態の解析。
●性能(検出下限・感度など)
検出深さ…2~10nm
検出下限…0.1原子%
分析可能領域…10μmφ~1mmφ

●分析対象
分析可能試料
あらゆる固体材料(フィルム、板、粉体、繊維など)。
揮発性成分(水・有機溶媒など)を含む試料(超高真空条件を阻害する試料)は対応できない。

利点
• ほぼあらゆる元素の種類、およびその電子状態がわかる(例えば、Fe(II) とFe(III) が区別できる)。結果にはある程度(有効数字で一桁ほどではあるが)の定量性がある。
• 物質のごく表面(数ナノメートル)の元素分布がわかる。また、GCIBアルゴンエッチングを適宜行うことで深さ方向の元素分布を知ることができる。

欠点
• 水素とヘリウムは測定できない。
• 高真空中で固体として安定なものでないと測定できない。
• 絶縁体は測定中にチャージアップが起こるので再現性が悪い。
• X線によって試料がダメージを受けるため、正確に状態を反映しないことがある。
• 炭素化合物の定量は難しい(装置内を高真空に保つためのポンプ由来のオイルミストや試料に付着した一般的な汚れ(高級脂肪酸などの炭化水素系物質)の存在による)。
• 1)XPSはマッピングの空間分解能が高くありません。
• また、微小部の感度も低いため、微小異物などの検出には不向きです。

●分析手順
前処理・試料切断→装置(真空)内導入→測定→データ処理

●比較情報、関連情報
XPS測定結果の精度(繰り返し再現性:precision)については、一般的には定量値の±5%程度といわれている(定量については、表面が平滑であり、XPSの分析領域内で面内および深さ方向に均一であることを前提としている)この値は主に主構成元素(5atomic%以上)の場合であり、微量元素(0.5~5atomic%)についてはこの限りでなく、定量値の±20%程度に低下する。
主構成元素であっても、他の元素に起因する妨害を受ける場合があり、そのような場合の精度も低下する。
精度は確度(正確さ:accuracy)とは異なるものであり、絶対値に対する信頼性を意味しない。

☆他手法との比較
広範囲の材料について、元素組成と化学状態の情報が得られる。表面分析の「入り口」的手法。
濡れ、接着、汚染、酸化、劣化などの「表面現象」にはESCAが必須。
他の分析手法
表面組成の定量には、ESCA, AES。
化学状態ならESCA, TOF-SIMS。
(元素・官能基…TOF-SIMS, TEM-EDX, FT-IR等、形態…SPM, TEM, SEM)との併用分析が有効。

●まとめ
水素, ヘリウム以外の元素及び元素の化学状態についての(半)定量的な値が得られる表面分析手法で、検出深さは、10nmまたは10nm以内。最小分析エリアは10μmφ程度。
X線(主流はAlKα線)を試料に照射した際に、試料を構成する各元素から放出される内殻電子を検出する。測定は超高真空中で行われるので、実用的には蒸気圧の低い固体試料の表面分析が主体となる。

主なアプリケーション
• しみや変色の分析
• 粉体や残留物質(残渣)の組成分析
• 化学処理の評価
• 化合物の酸化状態や酸化膜厚の決定 (例;電解研磨後のステンレス表面の酸化状態や半導体材料の酸化状態など)
• ポリマーや低誘電率材料の官能基の分析
• 表面官能基の特徴づけ
• 潤滑剤の膜厚
• 薄膜構成成分の深さ方向分布

●キーワード&タグ
表面分析、主成分分析、元素組成、化学状態、電子状態、濡れ、表面改質、接着性、酸化、劣化、気相化学修飾

●参考文献
1)青野正和編:表面科学シリーズ5 表面の組成分析、丸善株式会社(2000).
2)日本表面科学会編:X線光電子分光法、丸善株式会社(1998).
WEBSITE;アルバックファイ、ナノサイエンス、大阪府立産業技術総合研究所

●用語解説
(※1)真空中で固体表面にX線を照射すると、X線によってエネルギーを得た表面原子から電子が放出される。この電子は、X線などの光の照射によって発生するので、光電子と呼ばれる。この光電子は、元素に固有のエネルギー値を有しており、そのエネルギー分布を解析することによって組成情報が得られる。
(※2)磁場により電子の軌道が変更を受け、それが電荷の運動として核の位置に余分な磁場を生じるという機構によるずれを化学シフトと呼ぶ。自由原子や物質中の原子の電子に磁場がかかると、電子の波動関数が摂動を受けて空間的に変化して現れる常磁性的な電流と、ベクトルポテンシャルに比例する反磁性的電流が生じるが、その和は一般にゼロではなく、電子の量子状態を反映した値を取る。この電流が核の位置に作る磁場は、さらに核と電流の相対的な位置などに依存するので、物質の電子構造を分析することができる。(wikipedia)
(※3)オージェ電子分光法

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